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「∀ガンダム」における君主論・その6

2007.04.26 Thursday 10:55
 地上に降りたことで公人から私人となったディアナですが、その私的な部分がしばらく描かれます。彼女の過去のロマンスと、宇宙船ウィルゲムの発掘とが語られるエピソードは、お話的には面白いんですが、「君主論」のテーマとしては脇筋の感があるため、やや駆け足でいくことにします。
 今回は第13話「年上のひと」から第19話「ソシエの戦争」まで。

 ノックス崩壊によって、人々の道は様々に分岐しました。失脚したグエン・ラインフォードはルジャーナの領主の娘、リリ・ボルジャーノを頼って再起をはかり、イングレッサのミリシャは、そのルジャーナと連合してディアナ・カウンターに対しようとします。
 ロランはキエルとなったディアナとシド爺さん、イングレッサ・ミリシャの発掘部隊といっしょに難を逃れるうち、先祖のロマンスを確かめるために月へいきたいと夢見る発掘家のウィル・ゲイムと、彼の情夫テテスと知り合い、そしてキエルはというと、今はディアナ・ソレルとしてソレイユの中です。
 ここにきてキエルは、事態の受動的ポジションから、初めて能動的なポジションに移ったのですが、この、微妙で危ういバランスでなんとか成り立っている予測不可能の状況の中、視聴者が意外に思うほどの巧妙さで女王ディアナを演じ、事態を動かします。
 いち早くサンベルトに建国することを提案するミランは、このままではムーンレイスが侵略者となってしまうことへの危惧をいいます。彼の懸念はまったくもっともです。ノックス崩壊でアメリア各領は間違いなく、月への警戒を強めたはずで、ルジャーナが自領にマウンテン・サイクルがあったのを幸い、機械人形を掘り出し、早々にスエサイド部隊をつくったのも、領主がいなくなったために遊撃部隊と化したイングレッサ・ミリシャと連合したのも、その現われでしょう。
 この調子でアメリア全領のミリシャが連合でもすれば、さすがに月も対処の困難に迫られることになります。彼らと戦うにしろ、交渉を再開するにしろ、政治的な名分を確保しておきたいと考えるのは当然でしょう。
 根っから軍人思考のフィルは、そんなやり方をまだるっこしいと感じますが、キエルはキエルで、また別の思惑がありました。ノックスの戦災の様子を空から見た彼女は、
「あんな光景を見れば、お互いが恨みを忘れなければならないと思います」
 と口にします。ミランはそれに対して、しかしいろいろな人がいるのです、といいますが、それをいっている相手、つまりディアナであるキエル自身が被災者であり、本来ならばムーンレイスに恨みを持って然るべき人物であることを、彼は知りません。
 キエルはすでに、事態が単純で直接的な方法では収まりようのないことを悟っており、だから、自分の思惑は隠して、とりあえずはミランの提案に賛同します。今、この時点でなにより重要なのは、これ以上の戦火の拡大を防ぐことでした。
 この後のエピソードでキエルは、今度はハリーを相手に似たような対処をします。このときはウィル・ゲイムの処遇に関して指示を下したのですが、ウィルを迎え入れ協力するよう命じた後で、 
「その上で、ホワイト・ドールの動きなど訊き出せばよい」
 と、ひそかにハリーに告げます。当然ハリーはこれを、単なる夢想家であるウィルを利用する手だと受けとったわけですが、キエルの思惑は別のところに…本物のディアナの所在を探り当てることにありました。
 こうした、本当の目的は隠し、表向きの目的を与えてミランやハリーをうまく使う彼女のやり方は、実に巧妙だと思わずにいられません。深窓の令嬢風に見えたのに、いったいどこでこんなしたたかさを学んだのか、不思議なくらいです。
 もっとも凡人でも必死に努力するうち、またはこれまでと違った環境に置かれたときに、本人にも思いがけない才能を開花させる場合がしばしばありますから、キエルのケースもそれなのかもしれません。この後の建国宣言のときの彼女の行動などを見ても、どうやらキエルは、追いつめられれば追いつめられるほど、潜在的な能力を発揮するタイプみたいに思えます。
 さて、グエンが失脚した後のアメリア各領主はというと、どうも交渉再開のための努力をなにもしていなかったようです。こういう場合にはありがちなんでしょうが、自分らの保身と権益確保で仲間割れでもしていたのかもしれません。なんとか事態を止めようと、グエンの潜伏している心当たりへ手当たり次第、建国宣言式典の招待状を送った(そうすることでグエンが交渉再開のアクションを起こしてくれることを期待した)キエルですが、彼は期待通りダストブローの吹き荒れる中、ソレイユへと駆けつけます。あいにく、これにテテスたちのディアナ暗殺未遂が重なってしまったために、後少しのところで会うことが叶わず、キエルとディアナは元のポジションに戻ることを逸しました。
 こうなった以上もはや、キエルが自分の力で、この切羽詰まった状況を打開しなくてはなりません。式典当日はテテスに危うく殺されそうになりながらも、キエルはとうとう彼女の本心…建国宣言の中止と、アメリア各領との交渉再開の要請を会場に集まった地球、月双方の観衆の前で訴えます。
 政治的な観点からすれば、この行いは愚の骨頂といえるでしょう。サンベルトの建国は戦線の拡大を防ぐ意味合いもあったのです。いったん前線を広げておいて退却を条件に交渉を進めれば、アメリアの領主たちは、人口密度の低い一帯くらいは割譲を認めるだろうとの見込みがあっての、この建国宣言でした。が、キエルは土壇場でそれを放棄してしまったわけで、地球側がこれで増長するだろうことは容易に推測がつきます。
 ただし、これまでにも再三述べてきたことですが、人間の感情の絡む状況は、政治のみで治まるようなものではありません。当面の戦術で当面の事態が沈静化したところで、地球と月の間に横たわる感情の軋轢を解決する、根本的な方策にはなり得なかっただろうし、そのことはキエルには痛いほどにわかっていたでしょう。
 ここで彼女は、あえて政治を放棄することで、政治家や軍人、官僚などの、自らの領分での単眼的視点に陥りやすい者たちにではなく、地球人とムーンレイス、それぞれの民の感情に働きかけ、それぞれの民に直接語りかけたのでしょう。
「お互いが恨みを忘れなければならない」
 と…。
 それはつまり、民に賭けた、といってもいいのだと思います。これはある程度、いや、かなりの程度、民衆に対する信頼ないしは幻想がなくてはできないことで、ありていにいったら理想主義と呼べるものです。実際、この演説の直後に彼女は、ミランとハリーから、理想論だけでことは運べないと激しく非難されます。
 とはいえ、現実的施策としてサンベルト建国がどれだけ優れていたかといえば、実のところ交渉のテーブルにつく者たちにとって、なにかと話を進めやすい策であったという程度でしかなかったでしょう。
 ミランは自分たちが侵略者とならないために建国が必要だといいましたが、政治的名分はどうあれ、一般民衆の目には、それこそ月からきた者たちが侵略者に映ることは間違いありません。そして、建国を高らかに謳った後で、実際にその土地に…地球人たちの憎悪と怨念の視線を浴びながら…暮らさなければならないのは、ムーンレイスの一般民衆なのです。
 政治レベルでの解決を拒否して今一度、“なにが民のためであるか”という本質的な地点にキエルは立つことを決意し、それを宣言しました。恨みを忘れなければならない、という訴えは、当然ですがそれを訴える者自身が、自分の恨みを引っ込める意思を示さなければなんの説得力もありません。
 戦争は望まない、地球人と仲良くやっていきたい、地球の再生に手を貸したい…しかし、地球人の土地を奪うことの正当性を主張するのはやめない、という“政治的に正しい理屈”では、民衆の感情を納得させることなど、できるはずがないのです。

 キエルという女性は、この建国宣言拒否宣言の意図をミランやフィルに問い詰められたときに、地政学を考慮した上での戦略であった、といい抜けたりする辺りからも、なかなか優れた政治センスを持った人物のようです。
 ただし、本人は政治を目的化するような愚に陥らず、その点で賢明にも“女性”であったといえるでしょう。こういういい方は女性には失礼かもしれませんが、キエルは理性よりも自己の感情と生理に重きを置く、非常に女性的な女性でした。だから、ある意味ではディアナよりも、天皇型君主としてふさわしかったわけです。
 彼女のその女性の部分は、親衛隊隊長のハリー中尉を味方に引き入れた手腕に現れていたと、個人的には思います。上記宣言の後、キエルは当然のことながら、ディアナ・カウンター内で自分の立場が危うくなるだろうことを想定し、同時に、ハリーに本当の素性がばれていることを危惧します。
 以前にロランがローラであるのを察知したことからもわかる通り、ハリーは相当に鋭い男で、実際、式典直前にほんのわずかの間ディアナとキエルが対した、そのときの反応だけで、彼はキエル=ディアナであることも察してしまいます。その事実を公にしなかったのは、現状ではことを荒立てるのはまずいと彼が判断したからでしょう。
 もっとも僕は、たとえばディアナがロランに真相を語って彼を味方にしたような場面が、キエルの場合にも(直接的には)描かれなかった辺り、なにやらほかに理由なりきっかけなりがあったんじゃないか、と邪推しますが。
 あの時点でのキエルは、自分が否応なく孤立するだろうことを考えなければならない立場でした。それゆえ、せめて女王直属の親衛隊は、手持ちの勢力として確保しておきたかったでしょう。
 さらに加えてハリーのあの性格です。そこにキエルがつけ込む余地が発生しました。彼は現実を見据えた健全な政治的思考のできる男ですが、だからといって政治に足元をすくわれることはありません。それは彼が政治うんぬんより、まずディアナ個人に忠誠を尽くしているからですが、キエルは女性特有の直感でもって、その忠誠の奥にある彼の真情を察したのでしょう。
 キエルは、彼女を守ることが、やがて戻るはずのディアナの組織内での立場を守ることだ、とハリーに理解させたのだと思います。それはまったくの真実ですから、彼も納得したのでしょう。その上で、ひょっとしたら自分の身体を許すなどのことも、キエルはしたかもしれません。ハリーにはディアナへの憧憬と性的な意味での執着があり、また、根の部分ではかなり情の深い男のようでもあるから、寝た相手…それもディアナに瓜二つの女を、無下にはできなくなったのではないでしょうか。
 ようするにキエルは、男と女の関係に持ち込むことで、ハリーをコントロールしたのではないか、と…。そうでも考えない限り、あの状況で(あれこれと切迫していたとはいえ)、ハリーがミランやフィルから離れてキエルの側に立つ理由が、ちょっと説明がつかないようにも思えます。
 まあ、キエルが打算から上記のような駆け引きをしたと仮に考えたとしても(また、たぶんキエルは打算といえるほど考えていたわけではなく、ほとんど本能や直感で動いていたのでしょうが)、ほかに身を守る手段もなく、ハリーしか頼れる者がいなかったのなら、やがて彼女が感情面でハリーに傾斜していくのは、きわめて自然な流れだといえます。いずれにしろ、いざとなると主導権を握るのは女のほうだ、とは、よくいわれることです。

 男の立場でいうなら、キエルのこのいかにも女性的な行動も、そこにきちんと一貫した理性が働いている限りは、僕なんかにはまだ安心です。少なくとも男性的思考でちゃんと理解はできますから。
 誰だって自分の理解できない存在には不安を覚えるものですが、キエルよりさらに女性であるリリなどは、あまりに女性すぎて僕にはつかみかねる部分、不安を覚える部分が少なくありません。彼女のような女性を側に置いているグエンは、男性としてもやはり大人物なんでしょう。もっとも彼も、最後にはリリに笑顔で見捨てられるわけなんですが。
 この「∀ガンダム」の最終回で、リリはアメリアの女性大統領になるというようなことをいうんですが、実際のところどうだったんでしょう? 男性的指導者である大統領型君主には、彼女はもっとも適さない人物のようにも思えるし、逆に新しい時代の指導者として、旧来的な男性的リーダーでは及ばない、優れた君主になっていたかもしれません。
 ディアナ=キエルが、この物語の主人公であるのは、悪いいい方をするなら、所詮は富野監督という男性が生み出した女性キャラクターだから…男性の幻想の産物だから、ともとれます。彼女はじゅうぶんに女性的ですが、同時にほどほどに男性的で、つまりは男にとって、もっとも理解も共感もしやすいタイプの女性ですから。視聴者の感情移入の対象である主人公である以上、そのように設定されるほうが適切というものでしょう。あまりに女性的すぎる女性は、男性はもとより、女性からもなぜか反感を持たれるもので、リリなどはさしずめ、同性にもっとも憎まれるタイプの女性かもしれません。
 統治という行為は、いろいろとフィクションの創作と重なる部分があるものですが、だとすると統治者は、創作者であると同時に主人公でもあるという、いささか複雑なポジションにある存在といえます。
 ならば天皇型君主は、その本質が女性的なものであるのに、女性的でありすぎると民衆からの支持を失う、という矛盾を抱えているのでしょうか。物語中で一私人となり、一人の女性となった経験を持つディアナが、最終的に公人の立場に戻らなかったのも、ひょっとしてその辺りでの葛藤があったからだ、とも考えられます。


 追記
 この稿では論を進めるために便宜上、男性=理性的、論理的思考の持ち主、女性=非理性的、感情的思考の持ち主、というふうにしていますが、これはあくまで便宜上のことで、すべての女性と男性がこんなふうに単純化、分類化できるなどということでは、もちろんありません。その辺り、どうか誤解なきようお願いいたします。





↑ジェンダー的観点には踏み込みたくないと思っていたのに、だんだんと踏み込まざるを得なくなって、今さら大慌ての管理人にどうか拍手を。


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